松の手入れ
目次
松の手入れ
植木屋さんの間でも、「松の手入れは難しいから」とか、「松ができれば一人前」という声をよく聞きます。確かに他の植木に比べてマツの手入れは難易度が上がります。しかし一方、素人でも自分で手入れをなさっている方が数多くいらっしゃいます。
剪定後クロマツ
松は「難しい」というより「面倒」です。昔から「松は金食い虫」と呼ばれます。手入れに時間がかかり、職人さんの日当がかかるからです。
松の剪定が面倒な理由は以下のとおりです。
①小枝が四方八方に伸びているため、切るべき枝の見極めが難しい。
②一箇所から出ている芽の数が多いため、手数が多くなる。
③無理に刈り込むと、形が乱れる、あるいは部分的に枯れる。
④チクチクするので集中力が持続できない。
④はともかく、③については、刈り込みバサミやヘッジトリマーで一気に丸くしたい気持ちは分かります。確かに手入れをしたその日はそれなりに決まるでしょう。しかし、その後、一箇所から膨大な数の芽が出て、ゴツゴツした形になったり、棒状に切られた箇所が枯れたり、断面が茶色くなったりして、後々、収集がつかなくなります。松は木バサミを持ってじっくりと対峙するのが定石です。
松の剪定時期
本来、マツは春に「ミドリ摘み」、晩秋に「もみ上げ」という作業を行います。ミドリ摘みは現在のお宅では行わない方がいいでしょう。作業工賃が、年2回になり2倍になります。
これから解説する方法は、年に一度だけ手入れを行う方法です。「ミドリ摘み」については説明を省きます。
作業の前に・・・
松を剪定すると、必ず作業服に松脂が付着します。洗濯しても落ちません。手はヤニで真っ黒になります。
松の剪定の基本①
わかりやすくするために、まずは一本の小枝を地面に置いた状態で話を進めます。この画像の小枝は剪定前の状態ですが、葉の数が多すぎます。遠くから松全体を見た場合、葉と葉が重なり合って、全体としては鬱蒼とします。
この葉を適切な量にするには二通りの方法があります。
一つ目は、枝を途中で切る方法です。簡単に葉の量を減らし、枝の長さを短くする方法です。剪定の教科書では赤松に、この方法を使うことを禁じているものもあります。赤松は黒松より性質が弱く成長が遅いため、貧弱な枝では元から枯れることがあるためです。ただし私の経験では、赤松であっても場所によっては止むを得ないこともあります。
二つ目の方法は、枝を切らず(ハサミを使わず)、下の方の葉(古葉)を手でむしりとる方法です。この方法だと枝の長さは変わりません。柔らかく仕上がるというメリット、やや面倒というデメリットがあります。
この方法は「もみあげ」と呼ばれる方法です。特にアカマツでは優しく古い葉を取り除くこととされています。
以上が松の剪定の動作の基本です。
松の剪定の基本②
次は複数の小枝をどう揃えるかについてです。結論としては、他の庭木同様、「Yの字」に揃えるのが基本です。
上の写真は、ハサミを一回使っただけです。お分かりでしょうか。真ん中の太い枝を元から切っています。松に限らず庭木は放っておくと真ん中の枝にエネルギーが集中しやすく、真ん中だけズンズン太く伸びる傾向があります。
庭木の美しさというのは、短い枝がたくさんあってこそなのです。真ん中の枝だけが元気なのは見た目のバランスが悪いとされます。これを切ることで見た目をスッキリさせるとともに、エネルギーを分散させ、樹高を調整出来、将来的には枝葉を密に成長させることができます。
上部の枝の剪定
松に限らず、木の剪定で大事なのは最上部をきっちりと仕上げることです。上をしっかりと剪定すれば、他の部分の難は多少隠れるといっても過言ではありません。
しかし実際のところ、一番厄介なのも上部の枝の剪定です。特に数年間、放置していたような松はやや面倒です。植木屋さんに依頼した方がいいでしょう。
これは2年間放置した松の最上段の枝の内部です。これまでに「Yの字」だとか、「もみあげ」だとか説明しましたが、みなさんがいざ、自分でやろうとして最初に目にするのは、この写真のような光景でしょう。
最上部の剪定で、最初にすることは次の2つです。
①枝の内部にある小さな芽を傷付けないよう気を付けながら、手で簡単に取れる古い葉(茶色い葉、濃緑の葉)を取り除く。
②太すぎる枝(親指~小指くらいの太さ)を元から切り取る。
これだけでだいぶすっきりして、仕上がりのイメージをつかめるようになるはずです。全体の形は半球状で、それぞれの小枝は、前述のように、剪定していきます。
剪定前の写真の撮影時期は、6月頃になります。ピンと伸びたつくしのようなクリーム色の新芽が目立ちますが、これが松の新芽になり7月頃芽が開き松剪定の開始時期になります。
ミドリ摘みとは、これを取り除く事を言いますが、この文章を見ただけで作業しないでください。他にも注意する点があります。
「Yの字」に剪定する方法
例1 上の方の枝
例1は、最上部の枝の剪定例です。左端の太すぎる枝を元から切り除いて、さらに真ん中の細枝を切って、Yの字を作っています。上の枝は短めに、下の方や、日陰の枝は長めに残すのが基本です。
例2 上から中段にかけての枝
例2は、
①真ん中の枝の先端を1回切る
②付け根の古い葉をむしりとる
③先端に残った葉の量を手でむしりとって調整・・という流れです。
例3 上から中段にかけての枝
例3はよく見かけるパターンで、なおかつ不慣れな方が戸惑う形状です。一箇所から数多くの小枝が発生しています。しかしこれも、バランスを考えて2本だけ「Yの字」に残せばいいのです。この際、極端に弱った枝、極端に強い枝を残すのは不適切です。
ここまでは細かな「Yの字」でしたが、次は大きな「Yの字」です。
例4 下の方の枝
例4は中段、下段に見られる枝です。庭木は上の方を薄く、下の方を濃くして葉を残すのが基本です。下の方の枝を、例1のように剪定することはありません。下枝は上に比べて日照量が少ないため、より多くの葉を必要とします。少し分かりにくいかもしれませんが、先端を「中止め」して、古い葉をもみ落としただけです。
下へいくに従って、剪定は楽になります。下の方の日陰の枝は何もしない、ということさえあります。
松の剪定の重要な点
全ての庭木に言えることなのですが、仕上がりの形をイメージして作業を進める事です。
街路樹などは樹種が変わっても同じ切り方で、100本になっても同じ形は何もイメージせず考えず、安全に作業すればいいですが、庭木は近所の人が見ています。街路樹は切っている所を眺める人はいません。話しかける人もいません。
このことを考えて手入れしていただければ、自慢の庭木になるでしょう。